2018H30.11月号

火事ありて通行止の道の先配達なればと通してもらふ 

配達十年人も犬も顔馴染み怪しまれもせず吠えられもせず

ヘルメットが蒸れる故の禿げ頭老齢ゆゑの禿げと思はず

まちがへて人を撃ちたる狩人はその後いかに生きゐるならむ

 

塔 2018H30.12月号

三年毎に会ひて呑まむと約せしが二十年会はぬまま君は逝きたり

天井板の木目模様の或るところマリア様ゐて我を見おろす

とぼとぼとわが帰る道君のゐる店の前だけは胸張る腕振る

バス降りて転びし媼に手を貸して連れだちてゆく女高生二人

「せいぜいあと四、五年か」と我が齢を云ひしは息子この馬鹿野郎                                                  

校庭の砂を巻き上げつむじ風しばし生徒らを騒がせて消ゆ

 

塔 2019H31.1月号

植込みに騒ぐ野良猫ブチとシロこれ見よがしに交尾している

太陽とひまわり一日睨めっこ睨み倒してひまわりの勝

舌噛んで痛くて物が言いにくしそこを理由に詳しく話さず

政治士の資格を設け議員らに受験の義務を課してやりたし

雷鳴の遠のきながら朝明けて燕の雛ら巣立たんとする

ためらいためらい羽ばたきいたりし燕の子飛び方拙く巣立ちてゆけり

 

塔 2019H31.2月号

日差に映える障子に吊るし柿の影音なき音をかなでて揺れる

苅田焼く煙にかすむ遠き村寺の鐘なる一つまた一つ

傷めし膝なおりて配達はかどれば欠勤者の分をあと一まわり

山寺に夕の鐘鳴る村の坂上りつめれば配達終る

七十六歳今も吾は人を恋うあのひといかに夜を過ごすらん

鳩 雀 鴉 苅田で籾拾い食満ちたれば争いはなし

 

塔 2019H31.3月号

基本は教えた明日から自分で判断しろと信頼されたか見放されたか

死者の出ない完璧の防災案というあまた柩を備蓄するという

送金の機械操作に手間どれば行員が来て詐欺を疑う

打合せではここで出る筈の賛成の声ついになきまま集会終る

糸底でひとこすりして封を切る小刀五十年細りにほそる

 

塔 2019H31.4月号

倅のあとは無縁仏となる墓石花替えるたび寂しさつのる

劣化して点滅している玄関灯旅より帰れば寂しわが家

左利きを無理に右に直されて習いし文字の一生拙し

おたがいに声を荒げしことなしと妻も認めて婚五十年

口下手ゆえ言い負かされし君なれど言ってることは君が正しい

   同上  「特別作品」

バス通りを右へ左へ横切るは揚羽の蝶とメール配る吾

ヘルメットの風防越しに読む宛名ゴシック体の太字見やすし

冠水の流れ激しき交差道足踏みしめてバイクを押して

雨合羽脱ぎて出かける再配達まだ虹の立つ川向こうの村

稲刈りのせわしき村にたちこめる稲の匂いに癒され配る

働けばなんとかなるさと働いてなんとかなったかならなかったか

不在票を常より多く発行し電話を待ちて夜落ち着かず

配達区域にロシア人は彼女だけ宛名読めねど配達しに行く

鐘楼の和尚さんに声かけて昼時の鐘を撞かせてもらう

こむら返りがおきて路肩にバイク止め下肢屈伸す足首回す

庭いっぱいに豆干す君に呼び止められ貰いし小豆の袋ぬくとし

 

 

塔 2019令和元年 5月号                                                           

術後二十年ほとんど後遺症のなき今も松葉杖を仕舞いおく汝

氏子有志の手造りしたる門松の右より左少し小さし

少年ら河原に空手の寒稽古ひと蹴りごとに吐く白き息

調光照明をまぶしきまでに明るくし集合写真に捜す君の顔

老夫婦に不在票は見にくからん白紙にメモ書きして入れておく

鬚剃りてつるつるする顎心地よし今日はマスクを外して配る

風に散る梅の花びら唇に受けて愉しき午後の配達

サントリーダルマの空壜捨てられいて路地のネオンに降る青き雪

ネオン濃き袋小路の呑み屋街赤き雪降る青き雪降る

ヘルメットの風防に張り付く湿り雪風防上げれば眼鏡に張り付く

杉花粉霧湧くようにけむる谷配達なれば行かねばならず

雷雨過ぎ俄かな夕日に明るむ街合羽を脱ぎて配達続ける

石畳に門の格子戸影おとし朝の打水匂いたつ庭

籠開けて窓開けて待つ籠の鳥庭木に遊びて帰らず四日目

メダカの絶えし池に春の水ぬるみおたまじゃくしが日に日に太る

ウグイスを聞きつつ配りし山の村配達終りて聞き直しにゆく

十年使いし配達用の住宅地図空家の赤塗り多くなりたり

橋の上で選挙カーを追い越して川上の村へ配達急ぐ

おびただしく竹の子の皮捨てられて竹林の道バイクがすべる

狸も狐も出くわすことある配達道河童のようなものにも出遭う

雨に散る桜の花びら雨合羽に数多張り着く今日の配達

野仏の赤き前掛替える君病癒えしを喜び語る

大の字に青芝の丘に仰臥して宇宙の涯までわが独り占め

神島より大き船影春かすむ太平洋へ出でてゆきたり

側溝に溢れて流れるにわか雨蝉の抜殻流して早し

首伸ばし大口あける雛四つに順を迷わず餌をやる燕

飛行雲のびゆく先ほど夕焼けて最先端の一点輝やく

海原に光の道を渡しつつ夕日は今日も極楽往生

水張田の夕日と空に浮かぶ陽と火の玉二つ接近してゆく

論争といえど最早や口喧嘩まくしたてれば勝と思うらし

戯れて水溜りの水跳ね飛ばしバイク走らす配達帰り

「緊急車を通して下さい」スピーカーでお願いしながらパトカー徐行す

火事跡は整地をされて臭気消え梅雨の晴間の風吹き抜ける

水濁る激流見つめて草土手に鴨の親子ら動くともなし

集めし川蟹を沢に逃して幼児は親の手をとり帰りゆきたり

塀の上から覗き見してくるひまわりは今年も咲きぬ隣の庭に

工業団地の夏草刈られてこの朝は廃工場があらわに見える

苅田焼く煙の中に動く影斥候兵の潜むがごとし

倒れし稲倒れぬ畔草ありありと嵐過ぎたる夜明けの光

溝さらいの泥あげられし農道にザリガニあまた乾涸ぶ哀れ

雷去りぬブラインド上げる窓開ける風吹き抜ける夕日差し込む

右回り左回りに峯を越え再び相寄り流れゆく雲

短かき停電三回ありて雷の遠のく夜を歌集読みつぐ

 

 

塔 2020 令和2年 1月号

指の関節ポキポキ鳴らして始めるは今日配達するメールの仕分け

台風に倒れし稲を起こす君幼き孫も今朝は手伝う

イナゴあまた体に飛びつく農道は速度落としてバイク乗りゆく

杖ついて橋を来るは同級生笑顔に老いのはにかみ見せて

並べ干す寒天凍てて日に光るガラスのように氷菓のように

塔  2月号

胼胝ふたつ削り落とした手の平で握るハンドル今朝やわらかし

両脚伸ばし両脚広げて坂下るバイクの先は秋晴れ稔り田

人に出会えば誰彼かまわず挨拶す狭き村の配達人われは

常より早しと褒められる遅しと叱られる配達順路を逆回りして

左側にサイドスタンドのあるバイク左の靴が早く破れる

接着剤で繕いて履く左の靴靴を労り足首痛む

老いの玩具に聴診器を買い求め珍しければ猫までも診る

塔  3月号

霧に濡れてくもりガラスのようになるメガネを外して配達続ける

滑舌悪きわが喋り方にいつまでも文字整わぬ音声入力

隣村まで一気にバイク走らせる鈴鹿颪に背中押されて

何事かあるのかないのか欄干にもたれて川面を見おろす人ら

麓の村から川沿いの村と配りきて最後に残りし吾宛の「塔」

体やゝ左に傾け乗る癖ありバイクのタイヤ片減りをする

今日からは防寒ブーツ履き配る桜ちらほら咲くまで三月

塔  4月号

転倒して気を失なった無様な我を山の猿が見たかもしれず

 

舌だして雨に渇きを癒しつつ痛みをこらえてバイク押し行く

 

椎骨は潰れたままに固まれど元の形に復さずと聞く

 

予約を取り消した宿をGoogle地図に見る黒板塀に見越しの松あり

 

一人では生きられないというけれどひとりでいれば心落ち着く

 

勧誘には甘言支払いに生返事かんぽ生命のみにはあらじ

 

【特別作品】

鎮痛薬を飲みて始めるいち日の腰の痛みに耐えきれず終る

背丈が縮むほど骨が潰れたわけでなしされど身長測られている

嫁したれば娘は遠し背の折れし父を見舞いに来る気配なし

腰たたぬ日々を詠みたる文明氏六十七歳鈴鹿を行きし

足がだるいと老いを嘆きし文明氏腰病みたるは吾より若き

自死のこと考えているわが前に常のごとく飯を食む妻

骨を養えと鮭の骨缶ネット買い有難けれど食傷もよおす

右ひだり体転がし撮られても痛みの強弱写るはずなし

骨折を機会に配達辞めると言う七十七歳もう限界か

12番胸椎椎体骨折」太書きされし診断書三つ折りにされ封入される

深々と息吸う腹いっぱい物を食うひと月ぶりにギブス外れて

新しきスニーカーを買い求め今日から始める試歩百歩ほど

ひと月に一粒飲めば効く薬飲み方こまごま聞かされ帰る

手摺掴めまず立ち上がれ摺り足で歩け前からうしろから声

ひと月ぶりに湯船に沈めるわが体垢がしみ出るわき出る浮き出る

痛みなくなりまた配達を再開すいと易々と辞意撤回して

痩せて軽くなりし体で乗るバイク風に押される風にふらつく

先妻病死長男戦死空襲被災父ほどの苦労我はせざりき

捻じるな反るな深く屈むな吾に三原則傷めし腰の治りし後も

 

「塔」2020R2  5月号

手を振って見送っている君の影バックミラーにまだ見えている

側溝の蓋の間から顔を出すタヌキに見られる配達の道

日のあたる明るいところでバイク止め目を細めて読むメールの宛名

長き坂を下りし惰性でひと村を走り抜けたり配達帰り

「塔」2020R2  6月号

 

手袋をニ枚重ねてなお冷える手指揉みもみ配達急ぐ

 

配達で冷えた体を温める真昼間の風呂湯上がりの酒

 

二枚重ねて使いし手袋この朝は一枚にして春暖かし

 

ボタン押して信号の変わるを待ちながら転入者の家を地図に確かむ

 

転倒して骨折をした近道はその後通らず遠回りして

 

「塔」2020R2  7月号

 

脈拍のとぶにも慣れぬ一つとんだ二つとんだ五つとべば死

 

聴診器を自ら胸に当てて聴くキュッと痛む時の濁る心の音

 

採血の黒ずむ針痕春ぬるみ薄着になりしこの朝気づく

 

靴紐を結び直して配達す二階建アパートの多きこの街

 

また空家ふえし村のぬかるむ道心寒ざむメールを配る

 

救急車続いてパトカーをやり過ごし配達続ける人らの騒ぐ村

 

顎紐を締めよと注意されながらメールを手渡す村の駐在所

 

「塔」2020R2  8月号

 

粧はず我と暮して五十年リップクリームに艶めく唇

 

ピンボケのやうにかさなる二羽の鴨池の面に泳がず飛ばず

 

街灯の白き光に散る桜老いてやつれし日の母がるゐる

 

寺の鐘鳴るは切り立つ崖のうへ霧の中にあるはずの村

 

風鈴のひびく無人駅電車から降りたつ白き巡礼ふたり

 

土塀にはわが影壁の向かうには赤児の泣く声子をあやす声

 

草土手をもんどりうって転げ落ち野良犬二匹まだいがみあふ

 

塔 9月号

 

猿の群に行く手阻まれしばし待つ残る配達急がずともよし

 

メール配る手のひら夕日に透かされて忙しかりしひと日の終る

 

八時半まで進入禁止の通学路バイク押してでも配らねばならず

 

小さきは生で食べよと掘りたての竹の子もらふ配達の道

 

村々をメール配りしバイクの籠桜の花びら散りたまりをり

 

風呂敷を首巻にして配達し働きえたり七十七の冬

 

左へ左へ街角曲りて配達す左回りは疲れ少なし

 

塔 2020 R2 10月号

 

おはじきを弾くやうに指先で弾いて出されし釣銭五円

 

土手を焼く煙に汚れて上がる月満月なれど歪なる月

 

ひとつ撞き一礼合掌またひとつ鐘も僧侶も夕映えの中

 

バスを待ちたたずみゐたりし巡礼のスマホ取り出し電話を始む

 

黴のやうな苔か苔に似る黴か朽ち木を包みて瑞々しけれ

 

差し引きゼロになりて人間終るものいまわの母の呟きの声

 

 

 11月号

 

コロナ禍で祭礼中止となりし村提灯ともす古民家ひとつ

 

爪切りし指先この朝軽くなりメールの仕分け滞りなし

 

被覆線の被覆破れてむきだしの銅ひかる梅雨明けの朝

 

右ひだり何度も何度も見てをりし野良犬道を渡りゆきたり

 

高曇り鳶の鳴く村昼告げる山寺の鐘鳴りわたりたり

 

朝かげに光る流れに身を入れて鮎釣る人ら点々とあり

 

 

 2020.12月号

 

缶麦酒の缶の匂ひを好まずと勧めしビールは退けられぬ

 

君の留守に君の妻君に招かれて君の行状問ひただされる

 

鬼灯は夕闇の墓地にまだ明かし木群のカラスらはや静まりぬ

 

ひとり酒手酌酒の誕生日潰れし椎骨労り生きむ

 

肺癌手術事後報告の電話あり「風邪ひいたよ」くらゐの言ひ方をして

 

 

2021R3...1月号

 

ただひとつ残る花束干からびて続く供花のなき事故現場

 

朝早く赤飯蒸す妻機嫌良し鼻唄聞くも久しぶりなり

 

蓮池の花の前に妻を撮る髪かきあげよ笑へなど言ひて

 

稲刈の終りて稲藁匂ふ村幼児を呼ぶ母親の声

 

ネギ坊主砕けて浄く咲き出でし花にあかるき朝の光

 

 

塔 2021 R/2月号

 

ペンライトに照らして宛名を読み配る日没はやし再配多し

 

どうぞどうぞと手振でパトカーを先に遣る後ろに従かれて走りにくいよ

 

マスクに籠る声思ひのほか若々しく微笑む眼差意外に優し

 

マスクの効用さしあたり我には無精髭四日くらゐは剃らなくてよし

 

病みゐると想ひをりしが磯釣りする写真来たりぬ黒眼鏡かけて

 

ブリキ笠に裸電球街灯は廃れし湯宿の裏道照らす

 

 

2021  R/3月号

 

バイクさへ入ってゆけぬ小道の先傾く家にも配達にゆく

 

豚が逃げたと人ら出であひ騒ぐ村電柱の猿見向きもされず

 

コンビニで買ひし赤飯握飯堤防で食べる配達の昼

 

腰回りが痩せてダブつくズボンには吊りバンドして病後を働く

 

幼児らのしゃぼん玉が目に沁みる配達急ぐ山裾の村

 

信楽の狸二体を友としてここ賤ヶ家に齢極まる

 

? R/4月号

 

石地蔵の赤き前掛新しく取り替えられて明日は元旦

 

十年勤めて傷みの劇しき配達地図空家に印す×ふえたり

 

賜りし手作りマスク健やかに君ありし日の部屋の匂ひす

 

落雪のあひまを測り軒下を小走りに配る雪解けの街

 

車椅子を操り来たりし同級生貧しく働く我を羨しむ

 

左回りに左折し左折し配達し最後は団地中央に至る

 

バイク押して凍てつく橋の上渡るバイク滑らず踏む足滑る

 

 

2021R3//5月号

 

「コロナなんかに負けるもんか」大書して壁に貼りある君のうどん店

 

里帰りの若きらはしゃぎし初詣コロナの今年は太鼓も鳴らず

 

左の上履すこし外向きに置いて待つ脚弱き君の履きやすからむ

 

泥雪に下腹汚れて引かるる犬今朝の散歩はうれしからずも

 

崖下は霧ふかき村登校する児らの呼びあひ集まる気配

 

「雨がまた降ってきたよ」独り言多くなりて老いるわが妻

 

2021 R/6月号

 

つま先の泥雪に濡れ足冷えて雪降る村を配達してゆく

 

バイクが滑る歩いても滑る雪の日は配達休みたし休まれもせず

 

無人販売所のトマト一袋買ひ帰る今日も無事に働きえたり

 

散り敷く椿に赤々午後の光さす裏参道ゆく我ひとりのみ

 

新聞ひろげ足の爪切り縁側の陽だまりにゐる三月三日

 

春かすみ海と空の境なし白鳥一羽漂ひゐたり

 

2021  R/ 7月号

 

部屋干しの匂ひの残る肌着着て寒き曇り日配達はかどらず

 

ドアが閉まり内鍵のかかる音を聴くそこまで確かめ立ち去る我は

 

金メッキ施し耀く燭台に仏を照らすはLEDの灯

 

サングラスに替へて西日に向き配る行っても行っても店尽きぬ街

 

新タイヤに替へしバイクの軽き音ひときは響き隧道をゆく

 

切通の向かうの村は十数戸その四割弱住む人のなし

 

手間をかけ紐を結び靴を履く老いたる妻を促がしかねつ

 

2021  R/8月号

 

金婚の今日を妻は気づかぬらし気づかぬふりして過ごさむ吾も

 

五十年暮して今も妻につき知らぬ事あり知らぬままでよし

 

金婚に気づかぬふりして十日過ぎ思ひ直して花束を買ふ

 

今日一種薬減らされ帰る道土手に上がりてシバ桜を見る

 

雨宿りに我を呼び入れ茶を淹れてくれし娼の三回忌の家

 

駅弁の蓋裏の米つまむ吾 チラチラ見てゐて孫笑ひだす

 

2021 R/9月号

 

専門医へ書いてもらひし紹介状受診せぬまま二年を経たり

 

誤字多き音声入力に苛立てば電話に切り替へ直接話す

 

代務して配達する村他所よりも早き田植ゑに人ら忙し

 

リモコンで操る田植機反転し真っ直ぐに来る堂々と来る

 

焼きあげし竹の子縦にふたつ割り湯気を吹き吹き?るは

 

 

【塔】2021 R/10月号

 

左手の中指右よりやや長し八十にして知る左利き吾

 

脚腰を追焚きの湯に揉まれつつうとうとまどろむ今朝二度目の湯

 

誤配して上司に叱らし若者に缶コーヒーを手渡し帰る

 

即席ラーメン食べ終へ直ちに出かけるは時間指定の再配達ひとつ

 

手術後の保養に磯釣りしてゐるは写真に見るさへ我を安ます

 

隅櫓を支へて切立つ石垣を蛇這ひのぼる梅雨降る夜明け

 

 

【塔】 2021:::11月号

 

血の噴くほど大怪我したることもなく穏やかに生きて今日八十歳

 

眉の間が遠くなりしと見比べる若き写真と鏡の吾と

 

輪中堤にあがりて見遣る水張田の水煌めかせ陽の落ちむとす

 

雷雲の過ぎるを待ちて雨宿り助け拾ひし子雀を掌に

 

雷過ぎし日差に湯気のたつ街を時間指定の再配急ぐ

 

梅雨明けの眩しき日差に乗り出だす配達バイク今日から新車

 

【塔】 2021 R3.12月号

 

ガソリンを満タンにして配達を終らむ明日から世は五連休

 

新米さんと呼ばれて親しまれる少女出勤して先づ窓ガラス拭く 

 

マスクずり下げ顔をカメラに差し向けて挨拶します配達員吾

 

側溝を溢れし雨水暴れる道水に逆らひバイク走らす

 

戦中に産まれ勲とつけられし我が名好まぬひと代でありき

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