「塔」に発表した歌

2024年  令和6年

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【塔】2024R6 / 4月号 

テレビ画面に映る戦場ガザの街いつも雲なき青空の下

逃げ惑ふ人ら崩れ落ちるビルニュースは見飽きぬ見飽きても見る

をぢさんが昨日見たのはどちらかと出遇ひし双子姉妹が笑ふ

家猫と野良猫内外むかひあひ窓のガラスを掻きあってゐ

誤配しても叱られる頃には辞めてゐる気楽に配らむあと十五日

霧おもく籠る崖下セルモーターを何度も回すは始発バスらし

「塔」令和6年3月号

老いて子にあらかた従ふ妻となり相談されるは稀となりたり

「服装と道具が仕事をするんだ」と建設現場の朝礼聞こゆ

通販カタログかさばる年末配達も今年が最後機嫌良く配らむ

道端のイタチの骸夕立に溢れる溝を流されてゆく

野天湯の入口「すべる・ご注意」の札立ててある傾いてゐる

【塔】2024令和6年2月号

あとの迷惑考へず転職してゆくと陰口かしましき正社員たち

なくなる仕事と知れば直ちに次の職をさがすは当然の行為なるべし

メール配達なくなりし後なにするかと声かけられる配達の道

餞別だよ地植ゑにしなよと抜きくれしツワブキ前籠に配達忙し

配達するたび「ありがたう」と声くれる少女の家庭は円満ならむ

朝の散歩橋の向かうは明日行かむ明日も晴れる予報であれば

●一月号

 水面にあかり一列落としつつ濠端すすむ提灯行列

 亡き子の名書きし提灯石地蔵に供へてながく手を合す女

 時刻表を見上げ確かめ行きし窓切符は機械で買へと言はれる

 券売機は便利にあらずボタン押すまでの作業が我には難し

 お茶とメニューを運びきたりしロボットが回れ右して無言で去りぬ

●一月号(風炎集)   《宇宙で暮らしたい》

目醒めよし朝飯うまし悩みなし若返る病気に罹りたるらし

 日々若くなって困ると冗談を言ひつつ受ける高齢健診

 壁白く塗れば朝日が反射して隣家は迷惑するかもしれず

 艶のある白い外壁朝日差し鳥影飛びたつ枝影揺れる

 竪樋を落ちる水音リフォームは雨の音まで新しくなる

雨戸繰る妻の仕草の穏やかに早くもリフォームの効果がひとつ

 リフォームの足場とシート払はれて部屋吹き抜ける風 白き蝶

 軒裏を張り替へ今年はツバメの巣なくなり寂し明るけれども

 川霧に浮いてるやうな鉄橋を浮いてるやうに電車徐行す

 メール便廃止はウェブで知りたりき『アララギ』廃刊にまさる驚き

 発熱ベストの温度を高くし配達し真冬も汗かき励みしものを

どうせ我らは請負仕事の配達人メール廃止は諮られもせず

 柿もらひ大根もらひこの村に人らに親しみ勤めしものを

 八十五まで勤めたかりしが職退かむ職種変更キッパリ辞退す

 菜園を買って草ひき畝おこし備へて待つは退職後の日々

 作り直したメガネをかけて配達しわが生は俄かに明るくなりぬ

 拾ひあげし蝉を庭に埋める妻やさしと思ふ幼くも見ゆ

 一千兆円を超えた借金減るもんか日本が破綻する前に逃げたし

 戦場も台風の渦も踏みつけて国際宇宙ステーション(ISS)で暮らしてみたい

 宇宙の涯その向かう側にまたひとつ素敵な宇宙が屹度あるはず

       「先生、僕は若返る病気になったと思うんです。調べてもらえませんか!」

       「その病気、ぜひ見つけたいねぇ。母の腹にもぐりこむまで、若返りたいなぁ。」

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